• 7月 12, 2025

妊娠中・授乳期の食生活で乳幼児のアレルギー・アトピー性皮膚炎を予防しよう

~ビフィズス菌・オリゴ糖の効果と最新エビデンス~


はじめに

近年、乳幼児のアトピー性皮膚炎(AD)は世界的に最大20%前後、国内では約10%前後の子どもに発症すると報告されています。赤ちゃんの肌トラブルは家族も悩ませ、「何か予防ができたのでは?」と自責の念に駆られる方も少なくありません。

近年の研究では、母親の妊娠中~授乳期の食生活、特に腸内環境を整えるビフィズス菌(プロバイオティクス)やオリゴ糖(プレバイオティクス)の摂取が、赤ちゃんの免疫発達に良い影響を与え、AD発症リスクを低減する可能性が示されています。本記事では、最新のメタ解析やガイドラインをもとに、科学的根拠と限界をバランスよく整理し、妊娠中~授乳期の実践ポイントをご紹介します。


妊娠中の食生活ガイドライン

1. 基本的な栄養バランス(厚生労働省「妊産婦の栄養所要量」準拠)

  • タンパク質: 1日50~60g(魚・肉・卵・大豆製品など)
  • 脂質: 青魚(DHA・EPA)を週2~3回
  • ビタミン: 葉酸、ビタミンD、ビタミンCを意識的に
  • ミネラル: 鉄分、カルシウム、亜鉛をバランスよく

2. ビフィズス菌(プロバイオティクス)の摂取

リスク低減を示す研究結果

  • Umbrella meta-analysis(38メタ解析・127,150例)では、妊娠中および授乳期のプロバイオティクス/シンバイオティクス介入でAD発症リスクが26%低下(RR 0.74、95%CI 0.70–0.79)したと報告されています(Frontiers)。
  • 個別メタ解析では、妊娠後期から授乳期にかけた介入でOR 0.67(95%CI 0.54–0.82)、すなわち約33%リスク低減とする結果もあります(PubMed)。

メカニズム

  1. 胎盤を通して免疫調節物質が赤ちゃんへ移動する
  2. 産道・母乳を介し、ビフィズス菌などの善玉菌が赤ちゃんへ移行する
  3. 母乳中IgAや炎症性ホルモン(サイトカイン)の調整

さらなる研究が必要な面

  • 介入菌株や投与量、開始時期・期間が研究間で多様
  • 母子ともに介入した群のみで効果があり、母単独や乳児単独では結果が一貫しない報告も
  • 長期追跡データが不十分、発症予防効果がどれくらい持続するかは不明

3. オリゴ糖(プレバイオティクス)の摂取

示唆的な小規模試験

  • 動物実験や小規模RCTで、ガラクトオリゴ糖(GOS)などが母体腸内環境を改善し、短鎖脂肪酸産生を促進、免疫調節作用を介してADリスクを低減する可能性が示唆されています(Frontiers)。

さらなる研究が必要な面

  • 大規模研究の不足: 母体投与単独でのAD発症予防を検証した大規模試験はほぼ存在せず
  • 母乳オリゴ糖再現性の限界: 母乳に含まれる数百種のHMOを市販GOSで再現困難
  • 個人差・安全性: 腸内環境や大量摂取の安全性データが限定的

産後授乳期の実践ポイント

1. 授乳期の摂取タイミング

  • プロバイオティクス: 毎朝食後に継続的に摂取。
  • オリゴ糖: 食事中、または食後に摂取

2. 具体的な食材例

  • プロバイオティクス源: ヨーグルト、発酵食品(味噌・納豆・キムチなど)
  • オリゴ糖源: バナナ、玉ねぎ、ごぼう、大豆

3. 免疫調節の仕組み

  1. 腸管免疫系活性化→母乳中IgA↑
  2. 短鎖脂肪酸産生→抗炎症作用↑
  3. サイトカインバランス調整→アレルギー反応抑制

4. 注意点・リスク管理

  • 偏食回避: 特定食品に依存せず幅広く
  • サプリ過剰に要注意: 推奨量を守り、複数製品併用は避ける
  • 体調変化の観察: 下痢・腹痛など異常時は中止し医師へ

母乳育児のメリット

出産したばかりの赤ちゃんのお腹の中は無菌状態ですが、口から周囲の雑菌がはいり1日もすると腸内に細菌が住み着きます。お母さんの乳頭にはビフィズス菌が定着しており、産後なるべく早い時期に授乳を開始することでビフィズス菌と母乳に含まれるオリゴ糖が赤ちゃんの腸内に届き、これが良い腸内環境を作ると考えられています。

抗生物質の功罪

細菌感染症において抗生物質は必要不可欠な場面はありますが、不要な抗生物質は避けるべきです。これは腸内の善玉菌を殺菌してしまい、将来的な気管支喘息の発症リスクとなりうることが報告されています。風邪などのウイルス感染症は抗生物質は効かないため、医療機関で安易に抗生物質を希望しないようにしましょう。また、抗生物質が処方される場合でも、本当に必要かどうか医師と相談することをおすすめします。


最新ガイドラインの整理

出典推奨/見解
日本皮膚科学会(2021年版)発症予防目的でのプロバイオティクス・プレバイオティクス投与は推奨しない(エビデンスB)(日本皮膚科学会)
World Allergy Organizationハイリスク児の予防に対し妊娠期・授乳期・乳児期のプロバイオティクス使用を条件付き推奨(very low quality)(ResearchGate)
米国小児科学会ほかルーチンでのプロバイオティクス/プレバイオティクス使用は推奨せず(エビデンス不足)(PMC)

国内外で見解が分かれているため、かかりつけ医と十分に相談のうえ総合的に判断してください。


毎日の献立サンプル(和食中心+発酵食品)

  • 朝食:
    • 玄米ごはん、味噌汁(わかめ・豆腐)
    • ヨーグルト(BB536などの胃酸に耐性のある菌)+バナナ
    • 青魚(さば・いわし)
  • 昼食:
    • 野菜たっぷり定食
    • 納豆・キムチ
    • 根菜(ごぼう・玉ねぎ)
  • 夕食:
    • 魚中心の和食
    • 大豆製品(豆腐・厚揚げ)
    • 海藻(ひじき・昆布)

市販製品の選び方

  • プロバイオティクス:
    • 生菌数1億個以上/日
    • 耐胃酸性菌株(BB536、LKM512など)
    • 添加物少なめ
  • オリゴ糖:
    • ガラクトオリゴ糖+フラクトオリゴ糖配合
    • 1日3~5g程度

相談すべきケース

  • 既往の食物アレルギー
  • サプリで体調不良

まとめ

  • 母親の妊娠中~授乳期の食生活は、赤ちゃんの免疫発達に重要な役割を果たします。
  • 母乳育児が赤ちゃんのお腹に善玉菌を定着させます。
  • 不要な抗生物質の使用は避けましょう。
  • プロバイオティクス介入でAD発症リスクは20~30%低減する可能性がありますが、研究・菌株・介入時期にばらつきがある点に注意が必要です。
  • プレバイオティクス(オリゴ糖)の母体投与は示唆的データに留まり、大規模研究は不足しています。
  • ガイドラインは国内外で見解が分かれており、日本皮膚科学会では推奨外、WAOでは条件付き推奨です。かかりつけ医と相談し、必要性やリスクを総合的に判断してください。

皆様と赤ちゃんの笑顔のために、信頼できる情報に基づいて安心して実践していただければ幸いです。ご不明点や心配事があれば、お気軽にご相談ください。


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