- 8月 10, 2024
のどの痛み、扁桃腺炎・咽頭炎
鼻炎?咽頭炎?扁桃腺炎?・・・全部「風邪」です。
「風邪」の原因の多くはウイルス感染症で、人から人へくしゃみや咳などに含まれるわずかな水しぶき(飛沫)から感染します。ひとくちに風邪といっても、どの範囲に炎症が広がっているかで症状は様々です。
飛沫を直接吸い込んだり、鼻水や唾液に触れたり、それらに汚染されたドアノブやテーブルなどに付着していたウイルスが手につき、食事をとったり鼻を触ることで体内にウイルスが入り込み、粘膜から感染します。のどから口にかけての粘膜にウイルスが感染した状態を「急性上気道炎(かぜ)」と呼びます。
風邪の初期、「鼻炎」ではさらさらした鼻水が出現します。花粉症がスギなどの花粉が原因の「アレルギー性鼻炎」であるのに対し、風邪はウイルスが原因の「感染性鼻炎」といえます。
のどの壁である「咽頭」に炎症が及ぶと、のどの粘膜が赤く炎症を起こし、違和感や痛みが出現します。炎症がより喉の奥へ進み、喉頭や声門に達すると咳や声がれなどの原因となります(喉頭炎)。のどの両脇に位置する口蓋扁桃が炎症を起こすと、腫れて膿が付着した左右の扁桃腺が口を開ければ見えるようになります(扁桃腺炎)。
風邪を引いた際に、なにか1つの症状ということは少なく、複数の症状が徐々に出現して合併するうようになります。それは一部の粘膜におきた炎症が隣接する周辺の粘膜に広がるためです。最初は鼻水だけだったのに1-2日後にはのどの痛みや咳を自覚するようになります。
今回とりあげる「咽頭炎」や「扁桃腺炎」は、多くの場合は軽傷ですが、時に重症化するため、その診断と治療には慎重なアプローチが必要です。これらの疾患に関する最新の医学的知見と臨床的アプローチについて詳細に解説します。
原因となる病原体と感染経路
主な原因は以下の通りです:
ウイルス性:
- アデノウイルス
- エンテロウイルス
- エプスタイン・バーウイルス(EBV)
- インフルエンザウイルス
- パラインフルエンザウイルス
- コロナウイルス(SARS-CoV-2を含む) など
細菌性:
- A群β溶血性連鎖球菌(GAS, Streptococcus pyogenes)
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
- インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)
- 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae) など
その他:
- 真菌(主にカンジダ属)
- マイコプラズマ
- クラミジア
感染経路は主に飛沫感染ですが、直接接触や環境表面を介した間接接触でも伝播します。特に、学校や保育施設、密閉された空間での集団生活において感染リスクが高まります。クラミジア咽頭炎は近くにいたくらいでは感染しませんが、性的接触がきっかけで感染します。
症状と検査
症状:
- のどの痛み
- 飲み込むときの痛み
- 発熱
- 全身倦怠感
- リンパ節腫脹
- 扁桃の腫大や白い膿の付着
迅速抗原検査:
溶連菌やインフルエンザ、COVID-19感染の迅速検査として実施され、数分で結果がでるためとても便利な検査です。ただ、病原体がいても検出されないといった「空振り」も少なくなく、検査で陽性(+)が確認された場合は診断は容易ですが、陰性(-)だった場合に必ずしも「その病原体はいない」ことの証明にはならないといった難しさもあります。そのため、家族がコロナを発症後に発熱した場合は、抗原検査が陰性であっても「状況的にコロナ感染症」と診断することもあります。
PCR検査:
一部の病原体では、その遺伝子を検出することで、抗原検査よりもより高い精度で診断が可能なものがあります。コロナ禍では市中のクリニックでもPCR検査を実施していた施設が多数ありましたが、現在ではその必要性も乏しくなり、またその他の病原体では通常PCR検査が必要となることは多くはありません。マイコプラズマ感染症やクラミジア感染症などで実施されることがありますが、通常は検査会社へ提出して検査を実施するため、経過がでるのに数日間かかります。
Centor Criteria(改訂McIsaac Score):
成人の「細菌性」咽頭炎・扁桃腺炎の可能性を評価するチェックリストです。以下の項目をチェックし、スコアに応じて抗原検査の実施や抗生物質治療の必要性を判断します。細菌には抗生物質は有効ですが、ウイルスには無効のため、抗生物質の是非を検討するために重要なチェックリストとして知られています。
- 38°C以上の発熱:1点
- 咳がない:1点
- 扁桃の腫大または膿の付着:1点
- 圧痛のある首のリンパ節の腫脹:1点
- 年齢 3-14歳:1点、15-44歳:0点、45歳以上:-1点
スコア 0-1:抗生物質不要
スコア 2-3:迅速検査を検討
スコア 4以上:抗生物質治療を考慮
治療戦略
感染部位や症状で治療方針は大きく変わらず、ウイルス性か細菌性かによって治療薬が変わります。
ウイルス性感染:
- 対症療法が主体
- 十分な水分摂取
- 適切な栄養摂取
- 安静
- 解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
- 局所療法(含嗽、スプレー、トローチ)
細菌性感染:
- 抗生物質療法
- 第一選択:ペニシリン(10日間)
- ペニシリンアレルギーの場合:セファロスポリン系、マクロライド系、クリンダマイシンなど
- 対症療法の併用
保険適用となる薬剤はいくつかあるものの、対症療法としては劇的に有効なものはなく、自然治癒をまつしかないのが現実です。風邪の症状の中でも咳はとくに厄介で、咳止めもあまり聞きません。いくつかの研究でハチミツ(1歳以上)やヴェポラッブの使用が風邪の咳を改善する可能性が示唆されています。また、感染性の鼻炎には花粉症などで用いられるアレルギー性鼻炎治療薬は有効ではないと考えられており、よい薬剤がありません。漢方薬である小青竜湯は風邪や花粉症の鼻炎に有効と考えられており、当院ではこちらの漢方をオススメしています。(ブログ「こどものかぜ」もご参照ください)
扁桃腺炎が更に悪化した場合、扁桃周囲炎となり非常に強い喉の痛みが出現するようになります。必要に応じて抗生物質を使用したり、一時的に強い抗炎症作用をもつステロイド剤の内服を併用することもあります。治療が功を奏さない場合は、首の粘膜下に膿が溜まってしまっている場合もあるため、首の造影CT検査や入院での点滴加療、時に膿を注射針で指して膿を抜いたり、手術が必要となる場合もあります。強い痛みが持続する場合は痛み止めだけで我慢しすぎずに、一度内科や耳鼻科で診察をうけることをおすすめします。
合併症と予防
主な合併症:
- 扁桃周囲膿瘍
- 敗血症
- 深頸部感染
- リウマチ熱(溶連菌感染後 抗菌薬治療で予防可能)
- 急性糸球体腎炎(溶連菌感染後 抗菌薬治療でも予防できない)
予防策:
- 手指衛生の徹底
- マスク着用
- 適切な栄養と休息
- 禁煙
- ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌)
まとめ
扁桃腺炎と咽頭炎の適切な管理には、正確な診断と個別化された治療アプローチが不可欠です。抗生物質の適正使用、患者教育、合併症の早期認識が重要であり、最新の医学的知見に基づいた治療戦略の継続的な更新が求められます。