- 3月 30, 2024
- 9月 25, 2024
妊娠糖尿病
妊娠糖尿病とは?
妊娠に伴って赤ちゃんに必要な血糖を運ぶために、お母さん自身は血糖を体内に吸収しにくくなります。この作用は胎盤が担っており、妊娠後期になるにつれて母体の血糖値が上昇することは自然かつ必要なことと言えます。しかし、結果としてお母さんの血糖値があがりすぎてしまうと母児ともに様々な健康上のデメリットが生じてきます。この状態を妊娠糖尿病と呼びます。糖尿病と妊娠に関するQ&A(日本糖尿病・妊娠学会)
リスク要因
妊娠糖尿病のリスク要因には、
- 妊娠前からの肥満
- 妊娠後の過剰な体重増加
- 家族の糖尿病(特に妊婦の母親)
- 35歳以上
- 過去に妊娠糖尿病の診断を受けている
などが含まれます。これらの要因を理解することは、リスクを早期に識別し、適切な予防策を講じるために重要です。
妊娠糖尿病の検査
妊娠糖尿病の検査は、妊娠24週から28週にかけて行われることが日本産科婦人科学会より推奨されています。この検査では、血糖値を測定し、妊娠糖尿病の有無を診断します。検査方法として、50gまたは75gのブドウ糖を含んだソーダを服用して一定時間後に血糖値の採血を行う経口ブドウ糖耐性試験(OGTT)があります。この試験を通じて、体のブドウ糖処理能力を評価します。検査にあたって以下の事項が重要となります。
- 来院時に甘いソーダをお渡しします。ソーダを飲んで1時間後に採血を行います。採血までの待ち時間で妊婦健診を行います。炭酸が苦手な方はお申し出ください。検査用飲料は非常に甘味が強いため、冷えたソーダで提供することが一般的です。
- 甘みの強いソーダのため、腹満感や嘔気、稀に嘔吐が起きることがあります。嘔吐した場合は後日再検査を行うか、随時血糖値で代用します。
- 炭水化物や糖類を含んだ飲料で血糖値が高く出てしまうため、食事は軽めに済ませ、検査開始までに食後2時間以上経過している必要があります。
これとは別に、妊娠初期(10週前後)の採血検査で、特に食事制限をしない血糖値検査を行います。この時期は胎盤が形成されていないため、胎盤の関与する「妊娠糖尿病」の検査というよりは、もともと高血糖の状態(糖尿病合併妊娠)がないかの確認検査といえます。妊娠糖尿病が妊娠がきっかけで高血糖になるのに対して、糖尿病合併妊娠は妊娠前から糖尿病があった状態といえます。初期検査で血糖値が100mg/dlを超えた場合にも糖負荷試験が行われることがあります。医療機関によっては妊娠中期まで待って糖負荷試験を行う場合もあります。
このほかに、妊娠をきっかけに糖尿病の診断基準を満たすほどの高血糖に達してしまう「妊娠中に発見された明らかな糖尿病」という分類もあります。いずれも食事やインスリンなどで血糖値を管理していくという点では管理方針にそこまで差異はありません。
予防と管理
妊娠中の適度な運動とバランスの取れた食生活は、妊娠糖尿病の予防と管理に非常に重要です。特に、無理のない範囲でのウォーキングなどの有酸素運動と、炭水化物の摂取をやや控えめにし、タンパク質をしっかりとる食生活が推奨されます。これらの生活習慣の調整は、血糖値を安定させるのに役立ちます。また、1日3度の食事から6回程度の分割食とする方法も血糖管理の一貫として医師より指示される場合もあります。
妊娠糖尿病の食事治療には様々な方法が提案されており、どのような栄養療法が最も効果があるかは現在も研究中です。このため、医療機関や医療従事者によって言っていることがまちまちといった状況が起こることになります。このブログの内容は「1つの考え方」であり、実際の方法については通院先の医師や栄養士などに従ってください。
具体的な食事計画の例
妊娠糖尿病の管理には、バランスの取れた食事が不可欠です。例えば、
- 朝食に全粒粉のパン/玄米、卵、野菜・少量の果物(果糖を含むためとりすぎに注意)
- 昼食にはチキンサラダ/全粒粉パンのサンドイッチ
- 夕食には肉・魚・豆腐、野菜をたっぷり使った料理 など
間食にはナッツやゆで卵、ヨーグルトが適しています。オリゴ糖は甘味を感じますが吸収されないため、砂糖の代用に適しています。これらの食事は、血糖値の急激な上昇を避けるのに役立ちます。妊娠の影響で食事が十分取れない場合に、タンパク質摂取の方法としてプロテイン飲料が考えられます。しかし、妊娠中のプロテイン飲用が母児にどのような影響を与えるかはよくわかっていません。プロテイン飲用の原料は牛乳や大豆であり、これらは妊娠中に安全に摂取できることから、食事の補助として飲用する程度であれば問題ないと考えます。
運動プログラム
妊娠中でも安全に行える運動には、散歩、水泳、妊婦向けヨガがあります。週に数回、30分程度の運動を心がけることが推奨されますが、運動前には医師と相談し、自分に合った運動強度を見つけることが大切です。多くの場合、妊娠中であっても運動は妊婦や胎児に悪影響を与えず実施することが可能であることが調査研究からわかっています。妊娠中に避けることが望ましい運動としては、衝突や転落のリスクのあるもの、気圧の急激な変化が生じるもの、高温にさらされるものがあげられます。具体的には乗馬、格闘技、スカイダイビング、スキューバダイビング、ホットヨガなどです。妊娠中の運動について(海外サイト)
妊娠糖尿病の影響
妊娠糖尿病は、母体と胎児の両方に影響を及ぼす可能性があります。血糖のコントロールが不十分な場合、帝王切開のリスクが高まるほか、早産、胎児の過大成長、出産時の合併症など、母子ともに健康上のリスクが増加します。また、糖尿病合併妊娠においては血糖のコントロールが不十分な状態ではそもそも妊娠しにくく、妊娠しても奇形などの先天異常のリスクも高くなることが分かっています。また、妊娠を前提とする場合、治療薬はインスリン注射にあらかじめ変更しておく必要があり、かかりつけの内科医ともよく相談しておく必要があります。
治療方法
妊娠糖尿病の治療には、主に食事療法、運動療法、自己血糖測定が含まれます。場合によっては、食事を1日5ー6回に分ける「分食」を行って1回あたりの血糖値の上昇をおさえたり、血糖値を下げるホルモンであるインスリン製剤の自己注射による治療が必要となることもあります。これらの治療法は、血糖値を正常範囲内に保つことを目的としています。血糖値の確認は指先で行いますが、この際細い針を使用して指先から採血する必要があります。かなり鋭利で工夫された形状をしているため痛みはないか、軽度で済みますが、1日に4回やそれ以上の血糖値確認を要する場合があり、負担はかなり大きくなります。近年では二の腕に装着したまま自己血糖を測定する「リブレ」という装置も保険適応で使用でき、妊娠糖尿病でも使用されることが増えてきています。フリースタイルリブレ(メーカーサイト)
おわりに
妊娠糖尿病は、出産後に血糖値が正常に戻ることが多いですが、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高まるとされています。また、母親が妊娠糖尿病だった場合、子どもも将来的に肥満や2型糖尿病のリスクが高まる可能性があります。これらのリスクを管理するためには、定期的な健康診断と健康的な生活習慣が重要です。当院では妊娠中だけではなく、産後の長期目線にたって妊娠糖尿病の妊娠中および産後の管理を行っています。