- 11月 27, 2024
猛威を振るう、マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、特に秋から冬にかけて流行しやすい呼吸器感染症です。今年は大流行しており特に注意が必要です。その特徴や予防策、診断・治療法について詳しく解説します。
1. マイコプラズマ肺炎とは?
マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。この細菌は一般的な抗生物質が効きにくいという特徴があります。主に学童期から若年成人に多く見られますが、全年齢で発症する可能性があります。肺炎というと重症のイメージですが、マイコプラズマ肺炎は比較的元気で日常生活がおくれてしまうことから、「歩く肺炎(Walking pneumonia)とも呼ばれます。しかし、適切な治療をしないと肺炎だけではなく中枢神経など他の臓器にも合併症が及ぶことのある油断できない感染症です。
2. 症状と経過
主な症状は、発熱、全身倦怠感、頭痛、そして乾いた咳です。はじめは痰絡みの少ない乾いた咳(乾性咳嗽)から始まり、徐々に痰絡みの強い咳(湿性咳嗽)に変化していくことが一般的です。特に咳は、熱が下がった後も3~4週間続くことが特徴で、対症療法もなかなかよい方法がないのが現状です。多くの場合、軽症で済みますが、発症した10%のケースで肺炎に進展し、重症化することもあります。
3. 感染経路と予防策
感染は、咳やくしゃみからの飛沫を吸い込むことで広がります。家庭内や学校などの施設内での感染伝播が多く見られます。予防策として、手洗いの徹底やタオルの共用を避けることが推奨されています。また、咳の症状がある場合には、マスクの着用などの咳エチケットを守ることが重要です。
4. 診断方法
マイコプラズマ肺炎の診断には以下の方法があります:
- 迅速検査キット(咽頭粘液):短時間で結果が得られますが、感度が低く、見逃しが多いとされています。
- LAMP法(咽頭粘液):高い精度で病原体を検出できますが、結果が得られるまでに数日~1週間かかります。
- 抗体検査(採血):感染から時間がたっていれば診断が可能ですが、結果がでるまでに数日~1週間かかります。また、感染初期では診断できず、後日再検査を行うことで確定診断ができます。
- 臨床診断:症状や胸部レントゲン検査を総合して診断しますが、初期段階では風邪との区別が難しく、進行するほど診断が容易になります。
これらの診断方法を組み合わせて、総合的に判断することが重要です。当院では主に臨床診断で治療上の判断を行っています。
5. 治療方法
マイコプラズマ肺炎の治療には、マクロライド系などの抗菌薬が使用されます。しかし、近年、マクロライド系抗菌薬が効かない耐性菌の存在が報告されています。マクロライド系でもとくにクラリスロマイシンは80%以上が耐性株との報告も過去にされています。そのため、おもにアジスロマイシンを使用しますが感染症の流行時には抗菌薬が枯渇してしまい薬局に在庫がないことも近年は多くなってきています。代替薬としてニューキノロン系(小児ではトスフロキサシン)やテトラサイクリン系など、他の抗菌薬でも治療が可能です。軽症で済む人が多いですが、酸素が必要な状態であったり、全身の消耗が激しい場合、中枢神経など他の合併症を生じた場合には入院して治療が行われます。
6. 日常生活での対応
感染が疑われる場合、学校や職場への報告と休養が重要です。家庭内での感染拡大を防ぐため、患者はマスクを着用し、共用部分の消毒を徹底しましょう。また、十分な水分補給と栄養バランスの取れた食事を心がけ、免疫力を高めることも大切です。学校保健安全法では第三種学校伝染病に指定されており、マイコプラズマ肺炎と診断された場合は「感染のおそれがなくなるまで」自宅療養が求められています。インフルエンザやCOVID-19のような明確な日数の規定はなく、おおむね「熱が下がって激しい咳が落ち着くまで」が自宅療養の目安となります。ケースにより様々ですが抗菌薬が開始されたタイミングから数日~1週間程度が必要な日数となります。
7. オリンピックとの関連性
マイコプラズマ肺炎は、過去にオリンピック開催年に流行が見られたことから「オリンピック病」とも呼ばれることがあります。しかし、オリンピック開催と直接的な因果関係は明確ではなく、偶然の一致と考えられていますが、2024年もオリンピック開催年であることは興味深い事実です。
8. まとめ
マイコプラズマ肺炎は、特に咳が長引く場合に注意が必要な感染症です。早期発見と適切な治療、そして予防策の徹底が重要です。症状が続く場合や心配な場合は、早めに医療機関を受診しましょう。