• 5月 7, 2026

【2026年4月から無料】妊婦へのRSウイルスワクチン(アブリスボ)定期接種|対象週数・接種場所・注意点【千葉市若葉区】

RSウイルス(RSV)は、生後6か月未満の赤ちゃんにとって特に危険なウイルスです。2歳までにほぼすべての子どもが感染するほどありふれた存在でありながら、月齢の低い赤ちゃんが感染すると細気管支炎や肺炎を引き起こし、入院が必要になるケースも少なくありません。

そのRSウイルス感染症を、赤ちゃんが生まれる前から防ぐ手段が2024年から日本でも利用可能となり、さらに2026年4月1日から定期接種(原則無料)に格上げされました。それが、妊婦さんに接種する母子免疫ワクチン「アブリスボ®」です。

この記事では、産婦人科・家庭医療の双方を診療している立場から、アブリスボの仕組み・有効性・安全性・接種タイミング・費用・よくあるご質問まで、最新情報をもとに解説します。


RSウイルスとは? なぜ新生児・乳児に危険なのか

RSウイルスは乳幼児の呼吸器感染症の主要な原因ウイルスで、発熱・鼻水・咳などかぜ症状から始まります。多くの子どもは軽快しますが、生後6か月未満の赤ちゃんが感染すると、細気管支炎や肺炎に進展して入院が必要になることがあります。

重症化のピークは生後2〜3か月。ここに大きな問題があります。通常のワクチン接種が始まる前の時期であるため、これまでは積極的な予防手段がありませんでした。ハイリスクの早産児などには抗RSV抗体製剤(シナジス)が使われてきましたが、健康な正期産児には適応がなく、多くの家庭にとって「待つしかない」感染症の一つでした。

注意が必要なのは、RSVで入院する乳児の80〜90%は基礎疾患のない健康な正期産児であるという点です。「うちの子は健康だから大丈夫」とは言い切れない感染症であり、だからこそアブリスボの定期接種化に至ったといえます。


アブリスボとは? 母子免疫ワクチンの仕組み

アブリスボ®(一般名:組換えRSウイルスワクチン)は、ファイザー社が開発したRSウイルスAおよびBの融合前Fタンパク質を含む二価の組換えワクチンです。米国NIHによる基礎研究から生まれ、FDA(米国)・EMA(EU)・日本の厚生労働省が相次いで承認しました。

仕組みは「母子免疫(受動免疫)」の活用です。妊婦さんが接種することで体内に抗RSV抗体が産生され、その抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行します。生まれてきた赤ちゃんは、自分で免疫を作れない最も無防備な時期をお母さんの抗体で守られることになります。

生ワクチンではなく不活化ワクチンであるため、妊娠中の接種が可能とされています。また、百日咳ワクチンとして利用される三種混合ワクチン(トリビック®、Tdap)やインフルエンザワクチンも同じ「マターナルワクチン(母子免疫ワクチン)」として妊娠中に活用されており、アブリスボはその仲間に加わった形です。


有効性:どのくらい効果があるの?

有効性は、7,358人の妊婦を対象とした大規模な国際共同第III相臨床試験(MATISSE試験、日本を含む)で検証されています。

重症RSV関連下気道感染症に対する予防効果

  • 生後90日時点:81.8%
  • 生後180日時点:69.4%

医療機関受診を要するRSV関連下気道感染症に対する予防効果

  • 生後90日時点:57.1%低下
  • 生後180日時点:51.3%低下

さらに、定期接種の推奨時期(妊娠32〜36週)に近いサブグループの事後解析では、生後90日時点での重症疾患に対する有効率は91.1%、生後180日時点で76.5%と報告されており、適切なタイミングで接種することでより高い効果が期待できます(AlZeera et al., 2025 / Swiss post hoc解析)。

日本産科婦人科学会・日本小児科学会ともにアブリスボの有効性と安全性を評価し、基礎疾患の有無にかかわらず全妊婦さんへの接種検討を推奨しています。


安全性・副反応について

MATISSE試験において、ワクチン接種群でプラセボ群と比較して、妊婦の早産・低出生体重児・新生児異常の増加は統計学的に認められませんでした。

主な副反応は以下のとおりです(プラセボとの比較で有意差ありのもの):

  • 注射部位の痛み:約40%(2〜3日で消失するものがほとんど)
  • 注射部位の発赤・腫れ

疲労感(46.1%)・頭痛(31.0%)・悪心(20.0%)はプラセボ群と同等であり、ワクチンそのものより注射行為による影響と考えられています。

重大な副反応として、ショック・アナフィラキシーが添付文書に記載されています(頻度不明)。接種後15分は医療機関内またはその周辺で待機し、体調の変化がないことをご確認ください。

なお、早産リスクについては、MATISSE試験全体で早産発生率に統計学的有意差は認められていません。また、米国での大規模市販後調査(VSD解析、32万人超)でも早産発生率に有意な増加は確認されていません。同じRSウイルスワクチンであるアレックスビー®(GSK社、mRNAワクチン)では早産リスクのシグナルが報告されましたが、アブリスボ®はアレックスビーとは異なる製剤であり、同列に論じることはできません。


接種時期・スケジュール

定期接種の対象期間は妊娠28週0日〜36週6日です(2026年4月より)。

接種は1回のみ、筋肉注射(0.5mL)で行います。

なぜ早めの接種が望ましいのか

抗体が産生され、胎盤を通じて赤ちゃんに十分移行するまでには一定の時間が必要です。2025年のAmerican Journal of Obstetrics and Gynecologyに掲載された研究では、接種から出産まで5週以上の間隔がある場合に胎盤移行効率が有意に高くなることが示されています。このことから、28〜31週頃の早めの接種が抗体移行の観点で望ましいと考えられます。

また、接種後14日以内に出生した乳児については有効性が確立されていないため、分娩予定日まで14日を切る可能性がある場合は、接種タイミングを担当医と事前にご相談ください。このような状況で生まれた赤ちゃんについては、出生後に小児科医と相談のうえニルセビマブ(ベイフォータス®)の投与を検討することがあります。

また、移行した抗体による有効性が確認されているのは生後6か月までです。6か月以降の有効性は現時点では確立されていないため、生後6か月以降も引き続き手洗いや感染予防に努めることが大切です。

百日咳ワクチン(三種混合ワクチン Tdap)との同時接種について

アブリスボは不活化ワクチンであるため、インフルエンザワクチンなどとの同時接種は問題ありません。ただし、百日咳含有ワクチン(トリビック®、Tdap)と同時接種した場合、百日咳に対する抗体上昇が低下する傾向が報告されています。同時接種は避けることが望ましいとされており、間隔については担当医にご相談ください。


費用:2026年4月から原則無料(定期接種)

2025年11月19日の厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会)で正式決定され、2026年4月1日から定期接種(公費負担)が開始されました。

区分対象費用
定期接種妊娠28週0日〜36週6日原則無料(公費負担)
任意接種妊娠24〜27週など対象期間外自費(医療機関により異なる)

千葉市に住民登録のある方が市内の協力医療機関で接種される場合は、定期接種として原則自己負担なしで接種できます。詳細は千葉市のご案内をご確認ください。


よくあるご質問

Q. 2人目・3人目の妊娠でも接種できますか?

はい、接種できます。定期接種の対象には「過去の妊娠時に接種歴のある方も含む」と明記されており、妊娠ごとに接種することで、その妊娠で生まれる赤ちゃんへの抗体移行が期待できます。なお、前回接種から母体内の抗体がいつまで持続するかについては、最新の研究(Kachikis et al., Journal of Infectious Diseases, 2026)で接種後12〜15か月にわたって一定レベルの抗体が維持されることが示されていますが、次の妊娠での胎盤移行の有効性については引き続き研究が進められています。

Q. ニルセビマブ(ベイフォータス)との違いは?

ベイフォータス®(ニルセビマブ)は、生まれた赤ちゃんに直接投与するモノクローナル抗体製剤です。一方アブリスボは、お母さんが妊娠中に接種して抗体を赤ちゃんに移行させる「マターナルワクチン」です。アプローチは異なりますが、どちらも生後早期の重症RSV感染症を防ぐことを目的としています。早産児や心臓・肺などに基礎疾患のある赤ちゃんには、出生後に保険適用の予防薬(ベイフォータス®またはシナジス®)が使われることがあります。対象疾患や適応条件はそれぞれ異なりますので、詳しくは小児科にご相談ください。健康な正期産児への予防的投与は現時点で保険適用外(自費)です。

Q. アブリスボを接種したら母子手帳に記録が必要ですか?

はい、必ず母子手帳に記録してください(予防接種記録欄「その他」)。日本小児科学会のガイドラインでは、生まれた赤ちゃんへのニルセビマブ(ベイフォータス®)投与の判断にあたって、お母さんのアブリスボ接種歴・接種時期の確認が必要とされています。接種記録が小児科医に伝わることで、赤ちゃんへの適切なフォローにつながります。当院で接種された場合は接種シールをお渡しします。

Q. 里帰り出産の場合はどうなりますか?

里帰り先(千葉市外)での接種も定期接種として受けることは可能ですが、事前に居住地の自治体(千葉市)への申請が必要です。接種前に千葉市医療政策課にお問い合わせください。

Q. 接種後の注意事項は?

接種後数日間は注射部位の痛みや熱感が出ることがあります。発熱や子宮の張りなど気になる症状が出た場合は、速やかに医師にご相談ください。接種後15分は医療機関内またはその周辺で待機してからお帰りください。


当院での接種について

わかばファミリークリニックでは、産婦人科・家庭医療(総合診療)の両方の専門性を活かし、妊婦さんお一人おひとりの妊娠週数・分娩予定日・体調に合わせて接種タイミングのご相談に応じています。アブリスボの定期接種に対応しており、妊婦健診の際にお声がけしています。また、WEB予約でもお申し込みいただけます。

「自分の週数でまだ間に合う?」「インフルエンザワクチンと同時に打てる?」など、ご不明な点はお気軽に受診・ご相談ください。

【参考文献】
Kampmann B, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464.
Simões EAF, et al. Final Analysis of the MATISSE Trial. Obstet Gynecol. 2025;145:157-167.
Kachikis A, et al. Durability of maternal RSV antibodies following Abrysvo vaccination. J Infect Dis. 2026.
AlZeera et al. Systematic Review, 2025.
CDC MMWR. October 13, 2023 / 72(41);1115–1122.
日本産科婦人科学会. RSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ®筋注用)接種についての情報提供(改定版). 2025年9月.
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン. 2025年8月改訂.
厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会. 2025年11月19日.
Know VPD! RSウイルス感染症に対するワクチン・予防注射(日本ワクチン産業協会).

文責:水谷 佳敬(産婦人科専門医・家庭医療専門医)
最終更新:2026年5月

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